過去
娘に伝えていなかった私の過去。
隠していたわけじゃないけれど、どうしても伝えなければならないほどのことでもないかな、と。
まあ、私が死んでから娘が知るよりいいか(笑)と、ついに伝えたら、驚いてたよね、やはり。
20代から30代の10年近く、私は、代々代議士の家の長男の妻だった。
相手は、政治家にならないとのことで結婚したが、家族、親戚、交遊関係に至るまで、政治家の匂いのする毎日だった。
玉の輿という人もいて、少なからず傷ついた。
そして、すでに完成されたような家に嫁いだ私には、気持ちの休まる場所はなかった。
一回り以上年上の義姉と、嫁である私を、義母は同じように考えてくれたことは今も感謝している。
けれど、私が抱いた疎外感のようなひんやりした気持ちは埋まらず、跡継ぎが出来ないままその家に残る理由も見つけられないと、無理矢理終止符を打つことになった。
離婚したくない、という相手は、優しい人だったが、「では、どうしたら続けられるのか」という考えの出来ない人だったのが、致命的だった。
実家という家庭から出て、私と新しい家庭を作る。
物理的に家はふたつ。
でも、新しい家にいるのは、精神的には私だけ。きっと、もしも子どもが生まれても、それは変わらず、ずっと一人なのだ、と思い詰めている私を、誰も理解してくれなかった。
私の実の両親さえも。
私は基本的に選挙にいかない。
政治に興味がない、というより、苦い過去に触れたくない、というのが、真実かもしれない。
あの家に残っていたら、今みたいな経済的な心配はなかった(笑)たぶん。
でも、あの家にいた時間と同じくらいひとりの生活をしたあと、私は娘を産んだ。
お金はあった方がいい。
でも、お金で買えないものがあるってホントなんだよね。
娘よ、貧乏な私のところに生まれてきてくれて、ありがとう。
お金で買えない、私のたったひとつの財産は、娘。
いつかは、手放さなくてはならない財産だけどね。