エルさん
38年ぶりのローマ教皇来日。
カトリック信者は勿論、日本人、在日外国人も、パパさまを熱狂的に迎えた。
私も、そのひとりだ。
そんな中、ひとりのブラザーが、パパさまと会う幸福を得た2日後の早朝、帰天した。
ブラザー マヌエル エルナンデス
88歳 太陽のように明るい人柄は、皆に愛された。
いつも、ミサが終わると、小さなポシェットに、いっぱいキャンディを入れて教会の芝生の前に立ち、子ども達に「お祈りした?」とたずねる。子ども達は、ブラザーのキャンディを楽しみにしていた。
皆、親しみを込めて「エルさん」と呼んだ。
通夜と告別式に伺って知ったことだが、エルさんがイエズス会の門を叩いたのは19歳。スペインの遊び人だったエルさん(イケメンだもんね)が、ある日、ママの作ったチョリソーサンドイッチを食べていると、前を盲目の婦人が通った。思わずサンドイッチを片手に、道を渡る手助けをすると「美味しそうな匂いがする」というので、どうぞとサンドイッチを差し上げた。その時、婦人がとても嬉しがったのを見て、「人を喜ばせる仕事をしよう」とブラザーになる決心をしたのだという。
イエズス会では、「神父じゃなくて?ブラザー?」と聞くと、「だって、イエズスさまも大工の息子だったでしょう?働いたでしょう?」と答えたという。
その決心を貫き、エルさんはブラザーとして人生を終えた。
エルさんは、日本に来て、キャンディを配りながら、多くの人々を喜ばせた。
特に、罪を犯した青少年。
私が救うのではなく、彼らが自ら救われることが目的だ、と語っていたという。
学歴はなかった。
でも、信仰の根幹を、彼は知っていたのだと確信する。